第4話 東京とは一言で “愛する街”

東京とは一言で “愛する街”

 

東京は高円寺から始まった、地域に根ざしたビールとお店造りへの思い、そして未来への夢を、株式会社 麦酒企画 代表 能村夏丘さんに伺った。インタビューは全4話。隔週金曜日に公開予定。

 

“これから”

 

image1

 

— 別の場所に新店舗をオープンされる予定はありますか?

 

今後、西武新宿線沿いに行きたいなと思っています。まだどこの街かも決まっていませんし、話もきていないですが、次の挑戦だと思っています。多分、この商売は現在の中央線沿いよりも難しいと思います。ですが、どの街にもビール屋さんを造ることを目標とする以上は、私鉄の方でも存在できるようにしたいです。それから、萩山研究所と高田馬場店があるので、その沿線の間に何もないっていうのも変な気がするので、次は西武新宿線沿いに行くべきだろうな、と思っています。今のところは特に、どこにもご縁はないので、むしろ、この記事をご覧になった住民の方に、「うちの街にもきて」と言ってもらえる方が、むしろ嬉しいです。投票制にしてもいいと思っています。

 

— 話は変わるのですが最近、都内でも小規模の醸造所が増えてきていると思うのですが、ご存知ですか?

 

あまり知らないです。

 

— これまでクラフトビールが流行っている割には、その場所で造るという事をあまり聞いた事がなかったのですが、やっと個人でも小規模の醸造所をはじめるところがでてきているなと感じています。東京という場所でブルーパブを始める事は難しいものなのでしょうか?

 

先程も申し上げたように、製造業とサービス業と2つのことをやるわけですから、職種としてハードだと思いますよ。体力もいるし。まあ、どんな商売でも追求して本気でやっていく人しか残らないと思います。

 

私はこの商売を大変だとは思っていないから、今でも続けている訳です。ただ、一般的には大変なんだろうな、と思います。世の中に無いものをやるっていうのは、開拓の精神をキープし続けるということです。だから、文化と呼ばれるところまで早く行きたい、というのは、そういう理由です。自家製ビールや街のビール屋さんというものが、当たり前のよう近所に出てきて、ビール飲もうよってなった時に、パッとそこが思いつくような状態になっていけば、きっと文化というレベルになっていくのではないかと思います。まだまだ知らない人の方がほとんどという状態ですね。

 

image2

 

— 地方に行くと昔から続けている地ビールの醸造所があります。私は地方の出身なのですが、そこに昔からある地ビールがあるんです。

 

もともと酒蔵さんですか?

 

— それは分かりませんが、まだクラフトビールという言葉も知らない時代に、自分の住む地元にも地ビールの醸造所があるんだなと思いました。

 

もともと清酒や焼酎などを造っていた酒蔵さんが、平成の解禁(酒税法改正)のときにビールの醸造をはじめたというパターンも多くみられます。そういう醸造所にはすでに醸造技術があるので、高品質なものが造られていたみたいですね。

 

— 地元で造るビール屋さんがもっと増えればいいなと思っています。

 

私はとにかく、ビールを文化にしたいという思いで事業を進めています。他の醸造所の思いはそれぞれ違うと思います。ただ、ビールを愛し、ビールを伝えたいという思いだけは、みんな共通だと思います。だから、ビール業界はみんな仲がいいですよ。ともすれば、同業他社のライバルにもなるところなんですが、そういう感じにはならない。経営理念や目指すところは違います。ガンガン海外を目指している企業もあれば、うちみたいに超ローカルを目指していくところもある。つくりたいビールも違いますし、千差万別です。

 

— 飲む側からすると大きな会社も、個人の小規模な醸造所もあって、色々なビールを楽しめたらいいなと思います。

 

そうですよね。飲む方にとっては、選択肢が増えて色々なビールで溢れてきたら幸せですよね。

 

image3

写真:現在、全店舗で力を入れているサービス「マイボトル」が店内の棚に並ぶ(写真提供:株式会社 麦酒企画)

 

“根無し草の葛藤”

 

— 東京でこれまでビールを造り続けてきて、東京でビールを造る、東京ならではという事はありますか?

 

私は生まれも育ちも東京で、東京しか知りません。東京ならではという事が、あまり分からないです。

 

東京は自分のホームというか。サッカーでホーム試合なのかアウェイ試合なのかって言いますよね。これまでも、これからも、なるべくホーム試合をしていきたいと思っています。いつかはアウェイになるかも知れないですが、ホームが広がっていくようなイメージです。東京はホームで、そこでやるのが自分にとって自然な感じがします。東京以外の醸造所さんと話をすると、「東京は人が多くていいな」とか「うまくやれば、すぐたくさん売れるでしょう」と言われることがあります。確かにそうかもしれないですが、裏を返せばうまくやらなければ、東京は埋もれてしまう訳ですよね。似たようなことをやっている所は沢山ありますから。紙一重というか。

 

写真:株式会社 麦酒企画代表 能村夏丘さん

 

私が生まれ育った板橋や、現在店舗のある杉並あたりのことを考えると、東京は「根無し草」が多いと思っています。首都は人も物も集まります。そうすると、かつての江戸エリアだったら、歴史があるかもしれませんが、板橋や杉並の辺りは江戸ではない。大正時代くらいまでは、多分、畑だったかもしれません。そこが今、宅地化した訳です。特に名産もなければ、お祭りのない所もあります。私が中高生時代に尊敬していた人がたまたま長崎の出身で、その人は、自分の土地の言葉も持っているし、食文化も持っている。羨ましいと思っていました。その人は「故郷と都会」ということをよく話していました。都会は頑張るところで、都会で疲れたら故郷に帰るということを言っていたのですが、それを聞くたびに悲しい思いをしました。「都会生まれの人はどこへ帰ったらいいんだろう」って。そういう感じで、地方出身の方が東京のイメージを変えていくということもあるかもしれません。これは都市や首都の宿命かもしれませんね。

 

10代から20代くらいまでは、自分のアイデンティティーを探すのに、結構苦労しまへした。「根無し草」です。自分の故郷ってどこで、疲れたらどこへ帰って、何にすがったらいいんだろう、死ぬ間際に思いつくことって何だろうって考えていました。でも、海外に行くと気づくと思いますが、日本人というだけで、日本が故郷になる。今では、板橋も故郷だと認識しています。そういう意味では、もう少し街にアイデンティティーを持たせたいと考えています。そこで生まれ育った10代の中学生や思春期の子供達に、「この街はビール造りをしているんだぞ、誇らしい事なんだよ」と伝えたい。

 

 

“製造業はアイデンティティーになる”

 

サービス業をアイデンティティーにするのは大変なことではないかと思いますが、それに比べて製造業というものはアイデンティティーになりやすいのではないかと思います。何かを造っているということは、それだけでなんとも言えない喜びがある。それは食品ではなくても、デニムやガラスなど、何かしらものづくりが行われているということで有名な事もいいかもしれません。よその土地から運ばれてきたものを大量に販売して消費している、例えばコンビニのように、どこの街に行っても同じものがズラっと並んでいるのでは、ちょっとアイデンティティーが見つけ難いかもしれません。だけど、例えば名物シェフがそこで造っている、他には無いようなレストランをやっている、というのも、ものづくりだと思います。おこがましくも、そういう一部になれたらいいなと思っています。住んでいる方々に、街の魅力の一部だよって言ってもらえたら本当に嬉しいです。

 

 

街単位の使命という意味では、街の人たちが歓迎してくれたら嬉しいので、そのためにはできることは何でもやりたいと思っています。今月も、荻窪ではお祭りやイベントに出店しています。そういう機会には、喜んで出店させてもらっています。各地のお祭りは当たり前ですが、ちょっとした行事でも、近所の寄り合いでも何でも、地域関係の事にはどんどん参加するようにしています。各店舗が、どんなに小規模な行事でも参加しています。一方で、都心部でのビアフェスや、有名百貨店の物産展に呼んで頂くこともあるのですが、お断りしています。それよりも地元で買ってもらいたい。ローカル重視なんです。

 

“東京は一言で「愛する街」”

 

— 最後の質問になりますが。麦酒工房さんにとっての東京を一言で言うと?

 

そうですね…。
「愛する街」、でしょうか。
あいまいな感じもしますが、しいて言えば、それです。

 

— 麦酒工房は着実にホームを広げて、いい感じで地域の人が巻き込まれている。その幸せがどんどん伝わっている感じがします。

 

いいお客さんにすごく恵まれていると感じています。私や、麦酒工房のスタッフが描いていることが伝わって、支持して下さる、というのがとても嬉しいです。これまで出会ってきたお客さんや、更に言うと大家さん、店造りをした時にお世話になった業者さんなども含めてですが、ずっといい出会いが続いているなと思います。これからもそうだったらいいなと思っています。

 

image5

写真:株式会社 麦酒企画代表 能村夏丘さん

 

— その出会いの中で、一人でも多く、そこからビール造りに興味をもってくれる人がでてくるといいなと思いました。

 

そうですね。小学校とか中学校の社会科見学も受けたいと思っています。子供達がどう感じるか分かりませんが、目をキラキラさせる子供達もいるかもしれないし、もしかしたら「つまらない」という子もいるかもしれない。一旦は就職するかもしれないですが、目をキラキラさせて、やっぱり自分はあそこでビール屋をやりたいなと思う子が一人でも出て来ればいいなと思っています。
次の世代には、ものづくりの喜び、自分の手を使って、五感を使って、なにかを作り上げて、それを誰かに飲んでもらえるということ、そういうところは伝えていきたいと思います。僕らの世代だと、会社に就職するのがいい、というのが一般的な考え方でした。そこは変えて行きたいです。自分の目で見て、何をやりたいのかを考えられたらいいですね。何歳でも遅くないと思っていますが、若いうちに気づいて、可能性が広がることはいいことだと思います。そういう意味でも、ものづくりの楽しさや魅力は伝えたいです。

 

“造る事と同じように伝える事にも熱心”

 

image6

写真:ビールサーバー用の冷蔵庫もDIY。

 

それから、社内の醸造家希望のスタッフに言っていることは、造ったら終わりではなくて、飲んでもらって伝わってこそ、はじめて完成ということです。「美味しいから売れるんじゃない。売れているのは美味しい」というサイゼリアの初代会長の言葉があります。例えば、299円のミラノ風ドリアは、ミラノにはない、とよく話題になりますが、サイゼリアはミラノのコピーをしたい訳ではない。結局、多くの人に美味しいと言われて、またそれをリピートして食べてもらえる。たくさんの人の胃袋を満足させている。それこそが「美味しさ」なんじゃないかと。美味しさの中にはコストパフォーマンスなども入っていると思います。それから、ファミレスは気軽さや、家族で行けるなど、色々な要素があると思います。でも最終的に、いくら能書きを言って、本場ミラノ風の何かをだしても、それがほんの一握りの人にしか利用されなかったら、「美味しい」と思っている人も一握りだと思っています。同じように、いくら美味しいビールが造れたとしても、それが飲まれなかったら虚しいです。商売ありきになってはいけない事もあるかもしれないですが、造り手は造ることの熱心さと同じ位、売ることにも熱心になって、自らがお客さんに伝えていくことも重要だ、というのが弊社の方針です。売る事は誰かがやってくれる、自分は造ることだけが担当ということでは無いのです。先程、醸造部の話をしましたが、あれは組織的に醸造の部署としているだけで、最終的に独立開業するメンバーは、営業から建築などの仕事もやりますし、すべての仕事を経験してもらいます。例えば、棚を組み立てる時に、「ここの部分どうしようかな?こうかな?」と試行錯誤して組み立てる感覚と似ています。ビールを造る時、「ここのところでもう少し温度を上げたい。でも火を使えないけれど、どうしたらいいのかな」と考える。「そうだ、熱いお湯を足そうか」という発想をする。そういった創意工夫をする時の脳の思考回路は似ている気がします。

 

— お話を伺っていて「意識を変えてもらう」という言葉が印象的でした。先程のお母さんが寄り道をする話(第3話 とっておきの時間を届けるマイボトル)もそうですが、意識を変えてもらうということに挑戦されていることに感銘を受けました。

 

これからも、ローカル寄りの発想は何でも挑戦したいです。こういう風に色々な方々とご縁ができてくると、私の中で知らない土地が少しずつホームに近くなっていきます。そんなふうに街と出会っていけるとといいなと思っています。最初は他人同士でも、だんだんと興味関心をもつようになる。夫婦みたいなものだと思うんですよ。お見合いでも、恋愛でも関係なく、いかに気持ちを一緒に、一日一日を過ごしていくかということだと思います。たぶん街との出会いも、そういう感じでホームタウンが増えていったらいいですよね。結局、街は人ですから。(完)

 

 

Interviewed by Mayumi Sakai
Photo by Jin Yamaguchi

 

 

profile

能村夏丘

株式会社麦酒企画 代表取締役

大学中退後、広告代理店に入社。旅先でクラフトビールと出会い、吉備土手下麦酒醸造所で修行した後、株式会社麦酒企画を起業。2010年に高円寺に1店舗目を出店し、今では阿佐ヶ谷、荻窪、中野、西荻、高田馬場の計6店舗を展開する。「街のビール屋」というコンセプトのもと、街の人に愛され、気軽に立ち寄れる醸造所として運営。店舗の内装や醸造設備もDIYでつくる、クラフト精神溢れるビール醸造家。

麦酒工房 社長のビール日記

 

★★★麦酒企画さんからのお知らせ★★★

 

「街のビール屋さん」をつくる仲間を大募集!!

 

麦酒企画さんでは「街のビール屋さん」を一緒につくるクルー(アルバイトさん)を大募集中です!「街のビール屋さん」を地元の文化にするぞ、という大きな目標に共感して、自分もその一部になりたいと思って下さる方。未経験でも構いません。(年齢不問です。)

 

街のお客さんが喜ぶ…

 

ビールをつくりたい!

料理をつくりたい!

お店をつくりたい!

サービスをつくりたい!

いつか自分も街のビール屋さんになりたい!

 

そんなあなたにオススメです!

 

詳細はコチラ(PDF)↓

「クルー大募集!!」

 

また、お店を一緒に「造る」仲間も募集しています。

棟梁や大工経験のある方、DIYや日曜大工が大好きな方、そしてビール工房の

ビールが好きな方。ぜひ一緒に、新しいお店とその街に根付く

新しいビールの文化をつくっていきませんか?年齢不問です!

 

【応募方法】

「ローカル★トーキョーを見ました」と明記の上、

〒189-0012 東京都東村山市萩山町3-5-1 株式会社麦酒企画 採用係

へ履歴書を郵送。もしくはお近くの店頭スタッフに履歴書をお渡し下さい。

 

お問合せ:042-313-0251 採用担当まで

店舗情報

 

高田馬場ビール工房

〒169-0075 東京都新宿区高田馬場1-29-2 恒栄ビル1F

電話:03-6457-6410

営業時間: 月~金 11:30~23:00 (14:30~17:00はドリンクのみ)

土/祝前日 11:30~23:00

日/祝 11:30~21:00

年中無休(年末年始を除く)

高田馬場ビール工房 ウェブサイト
麦酒工房 ウェブサイト

 

 

西荻ビール工房

〒167-0042 東京都杉並区西荻北3-25-1

電話:03-3395-6550

営業時間: 月~金 11:30~23:00 (14:30~17:00はドリンクのみ)

土/祝前日 11:30~23:00

日/祝 11:30~21:00

年中無休(年末年始を除く)

西荻ビール工房 ウェブサイト
麦酒工房 ウェブサイト