第3話 サービスを造る 

お客さんに喜んでもらえるセルフサービス。とっておきの時間を届けるマイボトル。

 

東京は高円寺から始まった、地域に根ざしたビールとお店造りへの思い、そして未来への夢を、株式会社 麦酒企画 代表 能村夏丘さんに伺った。インタビューは全4話。隔週金曜日に公開予定。

 

“お客さんに喜んでもらえるセルフサービス”

 

写真:カウンターには使用したビールグラスを洗う洗浄機があり、手書きの使い方も親しみやすい。

 

— お店でお客さんがビールを飲んだグラスを洗うグラス洗浄機がありますよね。いつ頃から、どうして始められたのですか?

 

あれは2号店の阿佐谷店から使っています。お客さんにセルフサービスを楽しんでもらいたい、というところから始まっています。人件費を抑えるために、全ての店舗で極力セルフサービスをとりいれています。人件費を抑える理由はビールを安くしたいからです。というのも、ビールを少量だけ造って、すぐにそれが無くなるというのは生産性が悪い。作業としては100リッターつくるのも1000リッターつくるのも、やることは一緒、そうすると年中ずっと職人がビールを作っていないといけないから、醸造の方に人件費がかかるわけです。それによって一杯何百円もする高いビールにはしたくなかった。「ブロンド」ビールが410円というのを始め、日常的な価格に抑えたい、という思いがあるものですから。できたての美味しさへのこだわりは絶対ですが、それ以外のところは徹底的にコストを削減しようというのは、当初から思っていたことです。まずは、人件費を抑える。そうするとグラスを洗う部分に人件費をかけるのではなく、できればお客さんに同じグラスを使い続けて頂いてはどうかと思いました。そういう店は他にないかもしれないですけど。

 

— あまりないなと思いました(笑)。

 

でも、嫌じゃないですよね。グラスを洗って使うのって

 

— グラスをもってカウンターに洗いに行くのは楽しいです。

 

牛乳飲んだ後に、同じコップで麦茶を飲むのは気がひけるけど、逆なら許せるみたいな。ビールの後に同じグラスでビールを飲むなら構わないけれど、どうしてもそれが嫌だったら、濯いでもらおうと思い、グラスを洗う機材を用意しました。高円寺店の時は私がグラスを洗っていたのですが。それでもスピードが遅いので、できればお客様にグラスを濯いで頂いた上でカウンターに持ってきて下さると、店員としては有難いのです。でもまさか客席にシンクを置いて、セルフ食器洗い機で、とお願いするのは嫌ですよね。何か、お客さんに楽しんで洗ってもらう方法はないかなと思っていたところに、あの機材を見つけました。

 

写真:洗浄機にグラスを逆さに乗せ、少し力を入れてグッと押すと、水が噴き出してグラスの洗浄が始まる。

 

— 見つけたということは売っているのですか?もしかしたらその機材も自作されたのではと思いました。DIYだなと

 

(笑)あれは売っています。でも本来はこういう用途で使わないです。あの機材は洗うためのものではなく、ベルギータイプのビールを注ぐ前にグラスの内側を潤すためのものです。

 

— 特に改造しないで使っているのですか?水圧などは変えていないのですか?

 

水圧は絞っています。弱くしています。

 

— ベルギービールに使用する時の水圧はもっと強いのですか?

 

はい。あれは基本的にバーテンダーがバーカウンターの中で使うものです。すごい勢いで水がバーッとでるので、お客さんがびっくりすると思います。だから今はちょろちょろ出るように絞っています。

 

— 試してみましたが楽しいです。

 

楽しいですよね。きっとお客さんが喜んでくれるだろうなと思っていました。そうしたら実際喜んで下さって。それで気をよくして、全店舗スタンダードとなっています。

 

“とっておきの時間を届けるマイボトル”

 

写真:カウンターにはグラス洗浄機とグラス、ボトル、樽の3種類の容器が並べられている。

 

— お客さんが使うビールの容器についてお聞きしたいのですが、グラスの他に、樽やボトルがあるようですが。

 

高田馬場店の「レギュラー」ビールは石狩ホワイト、ペールエール、IPAです。
「リミテッド」ビールはLBA(ライトブラウンエール)とブラウンで、「アース」ビールがスモモです。

 

更に、それぞれのビールに価格帯が3つあります。それが 「グラス」、「ボトル」、「樽」です。基本的に「グラス」が店内用で、「ボトル」と「樽」が持ち帰り用です。

 

— 「ボトル」や「樽」のビールを店内テーブルで飲むことはできますか?

 

「ボトル」や「樽」はサイズが大きいのでお得です。テーブルで召し上がって頂く場合はプラカップを差し上げています

 

写真:高田馬場店では、グラス、ボトル、樽で「レギュラー」と「リミテッド」 ビールをテーブルで楽しめる。

 

— お店ごとに容器のラインナップは変えているのですか?

 

この「ボトル」や「樽」の容器自体は全店でやっていますが、お店で飲めるのは、この高田馬場店だけです。

 

現在、お客さんにライフスタイルとしての提案をしている最中なのですが、高田馬場店のもう1つのコンセプト、裏コンセプトが「脱・飲食店」なんですよ。少し話がややこしいのですが、ビールを劣化なく美味しく召し上がっていただくために、飲食店の形態をとりました。それは今でも、これからも変わりません。

 

写真:持ち帰りの注文を受け、マイボトルに出来たてのビールが注がれる。

 

今度は街のビール屋さんとして、街の人にくまなくビールを届けたい。そうすると飲食店であることの限界が見えてきました。要は飲食に行くということは、外食に行く、外で飲むということです。それを日常的にできる人は問題ないと思うのですが、例えば、私の母は年に一度も外食しません。それは特に年配の女性の方に多い傾向だと思います。まだ、男の人の方が外で飲む機会があるかもしれません。

 

それから、子育て中のお母さんも外食をするかもしれませんが、それはママ同士のゆっくりしたランチなどだと思います。ランチの後は公園で子供達を遊ばせて、夕方、遅くなる前にスーパーで食材を買って、家に帰って、子供をお風呂に入れて。そう忙しくしている間に、外でビールを飲む時間はなかなか無いと思います。子供を寝かせて、やっと一息ついた、自分の時間だ、と思った時に、ビールを飲みたい人もいると思います。でも、自宅には缶ビールしか無いかもしれない。こういう方々にビール屋としてビールを届けるべきだと思っています。ちょうど2年前に、私の妻がその状態だったので、子育てというのはこういうことなんだ、ということが分かりました。だから、そのお母さんに、外食して、外で飲みなさい、というのは無理だと思っています。その代わりに、このマイボトルに出来たてのビールを詰めて、家に持ち帰って頂いて、子供を寝かせてからのお楽しみになればいいなと考えました。冷凍庫にアイスがある様な感じですかね。好きなドラマをみながら、アイスを食べるひと時を楽しむ様な、とっておきの時間を楽しんでもらいたいので、このマイボトルを始めました。

 

— ワクワクしますね。秘密の魔法瓶みたいな

 

ただ、ひとつだけご了承頂きたいのは、ほんの僅かですが、劣化してしまうことです。もちろん店内で飲むのが一番美味しいので、それにはかなわないと思っています。ナマモノですから帰ったらすぐ冷蔵庫に入れて、その日中に召し上がってほしいです。さらにいうと、できればホワイトビールなど、劣化しやすいものは、持ち帰りはせずに、できれば店内で飲んで下さい、と言うようにしています。

 

 

 

“心のバリアフリーのために”

 

写真:株式会社 麦酒企画代表 能村夏丘さん

 

— 西荻店では他のお店と違うグラスを使っていますが、グラスやジョッキの大きさや形などはどの様に決めていますか?

 

西荻店のグラスは「ジャグ」と呼んでいます。西荻店を造った時に、あのグラスを採用した理由は、西荻店の裏コンセプトである「脱居酒屋」です。西荻店以前の1、2、3、4号店は生中ジョッキを使っていました。それは、テレビでもお馴染みの見慣れた生ビールにできるだけ近づけたかったからです。当時、クラフトビールや自家製ビールはまだ市民権を得てない様な存在でした。ですから、あまり難しく、マニアックにしてしまうとお客さんが引いてしまうのが嫌でした。やろうと思えば、ヴァイツェングラスとかパイントグラスを使用してもよかったかもしれません。でも、味が違うだけで十分で、それ以外の見た目は、「毎度お馴染み、生中です」とした方がお客さんに伝わるだろうと思いました。泡もこんもり7:3の割合で入っています。

 

1、2、3、4号店は、生中ジョッキを使っていたのですが、西荻店をやるにあたって、同じものを使うかどうかを考えました。西荻店は女性やファミリーのお客さんが多いです。ベビーカーを押しているお母さんが、生中ジョッキに入ったビールを明るいうちからお店のテラス席で飲むということに、抵抗のない方にはいいと思いますが、それに抵抗がある方もいるだろうなと思ったのです。「子育て中なのに、昼間からビールを飲んで」みたいなことを言う人がいたらどうしようって思ってしまう。真面目なお母さんほど、そういう風に思っているのかなと。だから、そんなお母さんたちに「ビールを飲んでもいいじゃないですか」と言ってあげたかった。ということで、ビール飲んでいると思われないような容器にしてはどうかと思い、あのジャグにしました。一見マグカップみたいな可愛らしさもありますが、ジョッキのようにも見える曖昧な形です。そこがちょうど良いと思ったのであのジャグにしました。あの形だったら、明るいうちにお母さんが、寝ている子供を抱きながら、あのジャグでビールを飲んで、携帯をいじっている姿は、絵的にマルだなと思いました。

 

写真:西荻店のビール用のジャグ (写真提供:株式会社 麦酒企画)

 

心のバリアフリーのようなことです。お酒を飲む人は、黙っていてもお店に来て飲んでくださるので。それよりも、まだ嫌厭している方、「私にはビールは関係ない、ビールなんか飲んでていいな」と思っている方々に、町のビール屋の使命として、「何言ってるんですか、あなたも飲んだらいいですよ。遠慮することなんて一つもないですよ」と言いたい。だから、最も入りやすい店舗にしたいです。照明がガンガン明るいのもそういう理由です。お酒好きのお客様から、もうちょっと暗くしたらとか、バーみたいな雰囲気を出したら、と言われることもあります。でも、それよりも大事なのは明るいこと、ファミレス並みに明るいことです。例えば、20歳になったばかりの女子が一人でも入れるくらいの健全な感じ、というのも大事にしています。

 

—今の季節、扉がオープンになっていて通りから見えるので、外から入りやすい感じがします。

 

5号店の西荻と6号店の高田馬場でこの折れ戸を採用しているのはそういう理由です。この折れ戸は費用がかかるので、DIYで壁を作った方がいいのでしょうけど、開放感は何事にも変えられない。そのおかげで、健康な感じがするし、西荻店の時から描いている「脱居酒屋」のコンセプトの通り、居酒屋っぽさ、飲み屋な感じから、どんどん遠ざかっていくわけです。意識的に家庭っぽさもだしています。だからこそ入りやすさ、開放感は大事です。

 

 

“街の公園のような存在になれたら”

 

—早い時間に伺ったことがありまして、お子さん連れの方がお買い物袋をぶらさげて、ビールをのんでいました。

 

それは描いたとおりで、嬉しいです。
西荻店に関しては、オムツの替えがあるんですけど、「この子のオムツちょっと借りていい?」「どーぞ」みたいなノリです。街の公園のような存在になれたらいいなと思っています。それから、家族みんなが飲食しなくていいですよと、オープンに言っています。5−6人家族でお店に来て、飲んでいるのは一人だけで、あとの家族は食事メインだったり、ジュースだったり。子供は遊んでいてもOKです。

 

写真:旬の新鮮なフルーツからつくった西荻店のジュース。(写真提供:株式会社 麦酒企画)

 

—客席の奥にはお座敷がありますね。

 

はい。そこはそういったファミリー優先席のイメージです。大人だけで使っても問題ないですが、ファミリーさんが来たら譲ってくださいっていう席です。シルバーシートの様な感じです。

 

—街に対してライフスタイルを提案されると先ほどおっしゃっていましたが、環境づくり、ライフスタイルからビールに向かわせるというのが伝わってきます。

 

はい。そこができて本物の街のビール屋さんになれると思っています。ビールが美味しいのは当然ですが、いかにそれを生活の隅々まで届けるかという努力をこれからも続けたいです。マイボトルはその最新の取り組みで、今最も力を入れているところです。

 

写真:取材終了後、新鮮なビールが入ったマイボトルを片手に帰途へ。家に帰ってグラスに注ぐ瞬間が楽しみである。

 

Interviewed by Mayumi Sakai
Photo by Jin Yamaguchi

 

第4話 東京とは一言で “愛する街” に続く  10/14 公開

 

 

profile

能村夏丘

株式会社麦酒企画 代表取締役

大学中退後、広告代理店に入社。旅先でクラフトビールと出会い、吉備土手下麦酒醸造所で修行した後、株式会社麦酒企画を起業。2010年に高円寺に1店舗目を出店し、今では阿佐ヶ谷、荻窪、中野、西荻、高田馬場の計6店舗を展開する。「街のビール屋」というコンセプトのもと、街の人に愛され、気軽に立ち寄れる醸造所として運営。店舗の内装や醸造設備もDIYでつくる、クラフト精神溢れるビール醸造家。

麦酒工房 社長のビール日記

 

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