第2話 ビールを造る 

季節に応じてレシピは変わっても、その役割は変わらない。

 

東京は高円寺から始まった、地域に根ざしたビールとお店造りへの思い、そして未来への夢を、株式会社 麦酒企画 代表 能村夏丘さんに伺った。インタビューは全4話。隔週金曜日に公開予定。

 

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写真:株式会社 麦酒企画 代表 能村夏丘さん

 

“季節に応じてレシピは変わっても、その役割は変わらない。”

 

— 高円寺、阿佐谷、中野、荻窪、西荻窪、高田馬場にある、それぞれの店舗ごとに醸造しているビールの種類は異なるのですか?

 

現在、ビールの種類には3つのカテゴリーがあります。「レギュラー」、「リミテッド」、「アース」の3つです。

「レギュラー」は各店舗それぞれ3〜4種類あり、これは欠品してはいけませんというものです。レシピは厳格に決められていて、味の再現性を大事にしています。お客さんが求めている、「いつものあの味」のビールです。

「リミテッド」は、限定ビールです。春はヴァイツェンとかベルジャンホワイトなど、全店で「小麦フェア」をやっていたんです。秋になったら秋味ビールや、冬になったらウィンター・ポーターなどの限定ビールをやると思います。これは醸造部長をはじめとした各部署のトップが決めます。そのレシピで各店舗が一斉に仕込みます。

 

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写真:「レギュラー」「リミテッド」「アース」という3つのカテゴリーのビールが用意されている

 

—「レギュラー」ビールについてもう少し詳しくお聞きしたいのですが、その種類は各店舗で共通なのでしょうか?

 

「レギュラー」ビールは各店舗同じものもあれば、違うものもあります。その定義の中で同じということなんです。例えば「ブロンド」ビールは、年間を通してブレが許されない、味を変えちゃいけないよっていうのが「レギュラー」なんです。でも高田馬場店の「ブロンド」ビールと隣の店舗の「ブロンド」ビールは違っていてもいいということです。

 

—「レギュラー」のビールは年間を通して同じレシピなのですか?

 

同じといっても、お客さんにとって同じという意味です。レシピは変えます。別のものに例えてみると、シャワーは毎日に近いくらい浴びると思います。では年間365日浴びるとしたら、夏と冬と温度設定を変えていると思うんです。夏は少し水に近かったり、冬は温まりたいから、熱めにしたりしますよね。それが人間にとって気持ちがいい、シャワーで汗を流して気持ちがいいからという目的がある訳です。そのために温度は一年を通して一定ではない、という考え方です。

「ブロンド」ビールでいうと、スルスル飲みやすいデイリービールっていうコンセプトがあります。でも、お客さんが求めているスルスル飲みやすいという感じは、夏と冬では違うんです。冬にスルスル飲む感じと、夏の蒸し暑い時にスルスル飲む感じとでは違います。そういったスルスル飲みやすいデイリービールというコンセプトを守るために、例えば炭酸の量などを変えています。

 

— やっと分かりました

 

「レギュラー」のレシピは季節に応じて変わるんです。でもその商品の役割は変わりません。人にとってというところです。シャワーの温度の様なものなのです。

 

— 「アース」というカテゴリーのビールはどういうものですか?

 

大地の恵みに正直な、というコンセプトのビールです。今の季節(7~8月)はスモモが採れるので、スモモのビールを造っています。9月になったらブドウなどのビールを造る予定です。主に果物や、時にはホップ以外のハーブなども使います。秋になったら麦が収穫できますので、採れたての麦を使ったりもします。そういった大地の恵み(旬のもの)の都合に合わせてつくるビールです。

 

これに対して「レギュラー」と「リミテッド」ビールは人間の都合で造る。例えば、バレンタインだからチョコレートビールを作ろうというマーケティングがそうですが、チョコレートは一年中作れるわけで、でもバレンタインの方がより売れるだろうという商業的な都合で造るわけです。「リミテッド」という限定ビールもそれと同じです。

 

そうではなく、人間が謙虚に地球の収穫物で造ろう、大地の恵みを受けながら作らせて頂くという姿勢で取り組みたいのが、この「アース」の考え方です。主に果実のビールが多いですが、麦やホップは年一回の収穫ですから、その時期にはそういったものを使います。

 

— 麦も育てて収穫されているのですか?

 

ものによりますが、そういうこともやっています。

 

写真:この日の「アース」ビールは季節の果物、スモモを使ったビール

 

畑に始まり、グラスに注がれるまで

 

— 今回はスモモ、次回はブドウにしようという様に、原材料をはじめ、造るビールや料理はどのように決めるのですか?

 

弊社の組織図でいうと主に3つの部署があります。原材料調達部、料理部醸造部、それと営業広報部です。

 

— それぞれの役割は…

 

まず、原材料調達部はビールの原料となる麦などの原材料を調達します。お店で出す料理の、例えば枝豆一つから、じゃがいも一個までも調達してきます。

 

それらを美味しくする、造る人たちが醸造部と料理部です。

 

最後に、造ったビールやフードをお客様に提供し、接客する人たちが営業部です。例えば、店長も営業部です。

 

これによって、畑からグラスに至るまでの一つの工程が繋がる、というわけなんです。現在は私を含めた2〜3人で「畑」の部分である「調達」をやっています。「調達」は今一番開拓しているところです。

 

調達部が頻繁に各地の生産地とやりとりしていく中で、今何が実り始めているかとか、何が収穫されようとしているのか、という情報が入ってきます。その情報をもとに料理部醸造部と常に相談しています。

 

写真:埼玉県狭山産の新鮮な枝豆。調達部のメンバーは各地の生産地を周り、原料の「調達」に力を入れている

 

例えば、私が埼玉の農家さんの所に伺った後に、社内で

 

「ブルーベリーがそろそろ採れるらしいから、ブルーベリーのビールなんてどうだろう?」

 

と料理部醸造部に提案します。

 

「ブルーベリーの料理だと、デザートはどうだろう?」
「ん〜。デザートだったら秋にはカボチャに入りたいから、ブルーベリーはやめておきます」

 

と料理部が言ったとしたら、醸造部が、

 

「あ、いいですね。『アース』が最近ちょっと寂しいから、ブルーベリービールだったら色もついて面白そうだしやってみたいです」

 

という具合になる。そしてブリーベリーが何キロくらい必要か調達部と相談する。

 

そして調達部の私と、生産者さんとの間で、

 

「ブルーベリーが何トン必要で、値段はこんな感じで、品質はこういうのが希望で、糖度はこれくらいが良くて…」
「それだったら、おそらく8月下旬くらいになると思うよ」

 

といった会話をして。

 

そうすると社内で、8月下旬にブルーベリーが入荷予定となる訳です。それを受けて醸造部は8月下旬に向けてレシピ組みを始めます。
営業班もレシピができる9月頃になったら、ブルーベリーのビールができることが分かりますので、それを伝える準備をします。POPを作ったり、ホームページを更新したり、というふうに連携していきます。

 

いざ収穫となって、「来週ブルーベリーが採れそうですよ」っていう連絡をもらったら、仕入れてビールになります。これが「アース」の流れです。

 

「レギュラー」と「リミテッド」の場合は、畑からの調達の都合は関係ありません。醸造部が何を作りたいかということと、営業部から挙がってくる、お客さんが何を求めているかで決まります。

 

「最近、苦いビールが人気なんですよ。苦いの造ってくれないかな」という意見が営業部からでてきたら、醸造部と「苦いビール」を造ります。醸造部の“一人満足”みたいなことはしないです。あくまでお客さんが求めている、美味しいって言って下さることが大切だと思っています。

 

— そういったお客さんの意見はどのように集めるのですか?お客さんが意見や感想を書くためのノートがテーブルに置いてありますね。

 

それも一役買っています。
お店で、お客さんの反応を見ていればわかります。「美味しい」と聞こえたり、写真を撮っていたり、お代わりをされたり。レジを集計したら一番売れているビールもわかりますし、今日はホワイトがウケていましたっていうような報告が、営業のメンバーからも上がってきます。

 

 

 

“少量多品種で出来立てのまま飲み終えることを重視”

 

— 気になった事があるのですが、これだけの種類を作っていると管理が大変そうだなと思うのですが、ビールを醸造するタンクはどうやって切り盛りされているのですか?

 

少量多品種です。ひとつの仕込みでたった百何十リッターしか作れないんです。とても少ない量だと思います。それを、平均して年間100回くらい仕込んでいます。忙しい店舗だと年間150回くらい仕込んでいます。週で考えると、一週間に約3回は仕込んでいますが、忙しいですよ。

 

一般的な醸造所は、一ヶ月に何回かの仕込みですかね。毎日少しずつ造るような生産性が悪いことはしないで、ある程度どーんと造ると思います。僕らの場合はちょこちょこ沢山造って、品数を増やしたり、季節感を出したり。出来立てのうちに飲み終えて頂くことを重要視していますから、そういう意味で回転が良くなるように切り盛りしています。

 

 

 

国産の原料への取り組み

 

—お使いになっている原材料についてもお聞きしたいのですが、ホップや小麦は輸入されているのですか?

 

はい。そうです。

 

—国産の原材料を使うのは難しいのですか?

 

そこは今、調達部が取り組んでいることの一つです。小麦は2割くらいが国産になっています。ホップの場合、国産のものはまだ1割未満です。

 

日本の地ビールの原料の多くは輸入だと思います。麦芽もホップも酵母も輸入で、水だけが国産というものも多いです。それは悲しいですよね。日本酒を造るのだったら、国産のお米を使うし、日本の酵母を使うじゃないですか。日本酒は日本の酒だからでしょうけど、ビールはヨーロッパのお酒で、原料はほとんど輸入でしか手に入らないのが現状なんです。

 

— そうすると、先ほどおっしゃっていた調達部が取り組んでいる国産の小麦のビールというのは貴重ですね。

 

それは調達の努力です。なかなか手に入らないものなので、それをなんとか仕入れる努力をしています。「石狩ホワイト」というビールはそのうちの一つです。北海道石狩市産の小麦を使っています。

 

写真:北海道石狩市産の小麦を使ったビール「石狩ホワイト」。一年を通して楽しめる「レギュラー」ビールの一つ。

 

— 小麦とホップ以外のもう一つの原料である酵母はどのように選んでいるのですか?

 

酵母は輸入しているのですが、最近だと、3〜4種類位に落ち着いています。酵母は、売っているものだけでも100種類以上あり、全部キャラクターが違うんです。だから、すごく面白いんですよ。一時期、うちも同時に10種類くらい違う酵母を使っていたのですが、最近は「レギュラー」の品質を安定させることを一番大事にしようということで、酵母の種類を厳選しています。少ない店舗だと、一種類だけに絞っています。

 

酵母は難易度が高いですね。今、醸造部に10数名いますけど、何種類もの酵母を同時に扱えるのは、多分2人か3人くらいしかいないです。品質のブレを生じさせるのが嫌なので、酵母を何種類も扱うのは控えています。

 

写真:店舗奥の醸造所の中には、醸造中のビールが入ったタンクが並んでいる。タンクの上に置かれた瓶の中に、発酵中の酵母が出す二酸化炭素の泡が見える。

 

新たな実験の場、萩山研究所

 

—醸造家さん達は、こちらでゼロからビール造りを学ばれるのですか?

 

ゼロからです。一人だけ、ドイツで10年間ビール造りをしていた醸造家がいます。ブラウマイスター[1]を持っています。彼は今、麦酒企画の研究所である萩山研究所(東村山市)をつくっていて、秋から稼働する予定です。

[1]ドイツでビール醸造の高い知識と技術を習得した職人に与えられる称号

これまでは店舗でしか醸造を学べなかったので、いろいろと制約がありました。店舗で造っているビールはお客様の売り物となりますから、実験的なものは造れません。萩山研究所では、営業店舗だとなかなかやり難いこと、例えば、新たな酵母を探すことなど、実験的なこともできるようしようと考えています。

 

Interviewed by Mayumi Sakai
Photo by Jin Yamaguchi

 

第3話 サービスを造る “お客さんに喜んでもらえるセルフサービス。ビール屋に行けない人に届けるマイボトル” に続く  9/20 公開  

 

 

profile

能村夏丘

株式会社麦酒企画 代表取締役

大学中退後、広告代理店に入社。旅先でクラフトビールと出会い、吉備土手下麦酒醸造所で修行した後、株式会社麦酒企画を起業。2010年に高円寺に1店舗目を出店し、今では阿佐ヶ谷、荻窪、中野、西荻、高田馬場の計6店舗を展開する。「街のビール屋」というコンセプトのもと、街の人に愛され、気軽に立ち寄れる醸造所として運営。店舗の内装や醸造設備もDIYでつくる、クラフト精神溢れるビール醸造家。

麦酒工房 社長のビール日記

 

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お問合せ:042-313-0251 採用担当まで

店舗情報

 

高田馬場ビール工房

〒169-0075 東京都新宿区高田馬場1-29-2 恒栄ビル1F

電話:03-6457-6410

営業時間: 月~金 11:30~23:00 (14:30~17:00はドリンクのみ)

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